次は法人が所有物件を売却した時の仕訳方法についてまとめました。購入時の仕訳はこちら。
売却したら売上勘定ではなく固定資産売却損益勘定を使う
不動産を売却したら、有形固定資産に計上された土地・建物の簿価を逆仕訳してバランスシート(貸借対照表)から消し、売買代金が簿価(帳簿上の土地や建物の価格)より高い場合は固定資産売却益を貸方に計上、簿価より低い場合は固定資産売却損を借方に計上します。販売を主目的とする不動産業者ではないため、売上高勘定は使いません。特別損益という扱いです。
▼簿価が300万円の土地を400万円で売却した場合
借方科目 | 貸方科目 | ||
---|---|---|---|
現金 | 400万 | 土地 固定資産売却益 |
300万 100万 |
なお、土地の場合、売却代金である400万円は非課税売上となりますので、消費税は課税されません。
▼簿価が300万円の建物を200万円で売却した場合
借方科目 | 貸方科目 | ||
---|---|---|---|
現金 固定資産売却損 |
200万 100万 |
建物 建物 |
200万 100万 |
建物の場合、売却代金の200万円は課税売上ですので消費税が課税されます。固定資産売却損が出る場合は簿価の逆仕訳は売却代金とその残りの簿価と分けて仕訳します。理由は消費税の設定をするためです。課税事業者の方は記事を最後まで読んで頂ければと思います。
土地と建物を一括して売却する場合
投資用物件を売却する場合、ほとんどのケースでは土地と建物を一括して売却します。この場合、建物の売却代金には消費税がかかりますが、土地の売却代金は非課税ですので、土地建物を分けて仕訳します。
売買契約書に消費税額が記載されている場合
売買契約書に消費税額が書かれていれば、次の計算式で建物価格(税込)が分かります。
消費税額 ÷ 8 × 108 = 建物価格(税込)
残りの金額が土地金額ですので、売却代金を区分します。
売買契約書に消費税額が記載されていない場合
評価証明書・公課証明書を取得して、その固定資産評価額で按分計算します。通常は売買契約の際に不動産仲介業者が公課証明を取得しますので、公課証明のコピーをメールで送ってもらいましょう。
また、購入時に公課証明等をもらっている場合もありますので、それを使って按分する方法もあります。
按分方法については別記事を見て下さい。
土地建物を一括して売却する場合の仕訳方法
土地・建物共に売却益が出た場合
▼簿価が600万円の不動産(土地300万、建物300万円)を700万円(土地320万円、建物380万円)で売却した場合
土地は 320万 – 300万 = 20万円(売却益)
建物は 380万 – 300万 = 80万円(売却益)
となりますので、それぞれ固定資産売却益を計上します。
借方科目 | 貸方科目 | ||
---|---|---|---|
現金 | 700万 | 土地 固定資産売却益 建物 固定資産売却益 |
300万 20万 300万 80万 |
建物売却代金である380万円が課税売上なので、380万円のうち売却時の簿価である300万円と、建物の売却益である80万円、つまりこの仕訳の赤太字部分が課税売上となります。
会計ソフトでは科目の隣に「非売」「課売」等、消費税の設定をする箇所があります。会計ソフト上で課税事業者の設定をしている場合、建物は元から課税売上、土地は元から非課税売上の設定になっていると思いますが、固定資産売却益はどちらかが間違っているはずです。建物分の固定資産売却益を課税売上にし、土地分の固定資産売却益は非課税売上にします。
なお、簡易課税の届出をしている場合、課税売上の種類も選択する必要があります。賃貸物件の売却であれば事業用に利用する固定資産の売却に該当しますので、第四種事業(「四売」等の表記)と設定します。土地は非課税売上のままです。
次は土地・建物ともに売却損が出た場合
▼簿価が600万円の不動産(土地300万、建物300万円)を500万円(土地280万円、建物220万円)で売却した場合
土地は 280万 – 300万 = -20万円(売却損)
建物は 220万 – 300万 = -80万円(売却損)
となりますので、それぞれ固定資産売却損を計上します。この時、簿価の300万円を逆仕訳する際 、売却代金(土地280万、建物220万)と売却損部分(土地20万、建物80万)に分割して仕訳します。
借方科目 | 貸方科目 | ||
---|---|---|---|
現金 固定資産売却損 固定資産売却損 |
500万 20万 80万 |
土地 建物 土地 建物 |
280万 220万 20万 80万 |
貸方に注目すると、土地の売却代金280万円は非課税売上となりますが、簿価は300万円ですので残り20万円の土地代金も逆仕訳で貸方に出てきます。これは土地の売却代金ではなく帳簿から売却した土地の簿価を消すために仕訳しているだけですので、売上だけど課税されない非課税売上ではなく、元々消費税が課税されない不課税という扱いになります。消費税設定では「不課」等がありますのでそれを選択します。
建物の売買代金も同様に、実際に売却して課税売上となる220万円は課税売上となりますが、残りの簿価80万円は不課税となります。
なお、残りの簿価は全て借方に固定資産売却益として同額が出てきますが、これも売上ではないので不課税となります。
建物が売却損となり、土地が売却益となった場合。
▼簿価が600万円の不動産(土地300万、建物300万円)を600万円(土地400万円、建物200万円)で売却した場合
土地は 400万 – 300万 = 100万円(売却益)
建物は 200万 – 300万 = -100万円(売却損)
土地は400万円全額が非課税ですので、簿価の逆仕訳300万も固定資産売却益100万も非課税売上となります。
建物は売却代金が200万円ですので、簿価のうち200万円が課税売上、残りの簿価と固定資産売却損は不課税、となります。
借方科目 | 貸方科目 | ||
---|---|---|---|
現金 固定資産売却損 |
600万 100万 |
土地 固定資産売却益 建物 建物 |
300万 100万 200万 100万 |
課税事業者の判定方法
不動産を売却した法人が消費税の課税事業者の場合、建物の売却代金に対して消費税が課税されますので、課税事業者か免税事業者かは正確に調べましょう。
特殊な事例を除いて、基準期間の課税売上高が1000万円を超えた場合に課税事業者となります。基準期間は中小企業や個人事業主の一般的な事例では、個人は2年前の事業年度、法人は2期前の事業年度が基準期間となります。
平成27年に課税売上高が1000万円を超えた個人は平成29年の課税売上に対して消費税が課税され、3期目に課税売上高が1000万円を超えた法人は5期目に課税事業となります。
なお、法人の場合は会計期間が1年間の場合です。半年おきに決算したり、また会計期間を変更した場合、基準期間がいろいろ変わります。これについては国税庁のHPを確認するのが確実です。
不動産業者の場合
不動産の販売を本業とする不動産業者の場合、販売用不動産を仕入れたら棚卸資産に計上し、売却したら売上高に計上しますので、今回の仕訳方法とは異なります。需要があればいつか記事にします。